出荷者紹介

河野 正博さん

「高価な理由」

香川県の高松市と坂出市にまたがる瀬戸内海に張り出した山塊である五色台の東側、なだらかな山裾が平地につながり始める香西・鬼無地区でシャインマスカットを生産されている河野正博さんを訪ねました。果樹農家だったお父様の跡を継いだのは30代半ばの頃。けれど漠然と果樹農園を引き継ぐのではなく、新しい挑戦としてシャインマスカットの苗木を植え、生産に取り組むようになったのは今から10年ほど前のこと。現在では今回お話を伺ったビニールハウス(1反)の他にもいくつかのシャインマスカット生産用のビニールハウスを運営管理するまでに成長しています。

ところでみんなが大好きなシャインマスカット、おそらくほとんどの方が思い浮かべる特徴として例えば「種がない」「皮ごと食べられる」「上品な甘さ」「美しい粒色」「整然とした粒の並び」「でも、高い」などが挙げられるのではないでしょうか。特に一番最後の「高い(高級品!)」という点においては、とりあえずシャインマスカットは他のぶどう品種を大きく引き離しているよね、と私個人的には感じていました。けれど、河野さんのお話を伺った今は「そんなに手間暇かけていたら高価なものになるよね」と考えるようになっています。つまり納得の、理由ありきの値段の高さなのです。

香川県で作られるシャインマスカットは、JAの検査場で糖度や粒張りなどの厳格な基準をクリアして出荷されます。その中でも河野さんが作るシャインマスカットは「高級品のシャインマスカット」として取り扱われるレベルだそう。そのため河野さんのシャインマスカットは関東や関西の百貨店、都内の有名フルーツ専門店にも流通すると聞きました。実際に河野さんの農場で出荷前の木になっているシャインマスカットを見せていただきましたが、まず一房一房の美しさに目が奪われました。どの房もバランスが良いきれいな円錐形をしています。そしてその房についている粒はほぼ均一の大きさで、かつ整然とならんでいました。ああ、これは食べる前から(美味しいに決まっている)って確信しちゃうやつだなと即座に思いました。(その後農園で試食させていただき、美味しすぎて冗談抜きで倒れそうになりました。)

もちろん「見て良し、食べて良し」のシャインマスカットは、並大抵の努力で出来上がるものではありません。シャインマスカットの生産において最も大切なことは「適期に適切な仕事をきっちりすること」だと、JA選果場の職員さんはおっしゃっていました。その点において、河野さんの時期を心得た的確な仕事には大きな信頼を置いているとのこと。また、河野さんは木への負担を考えて思い切って摘果したり、出来上がりの房の姿を想像して粒が小さいうちに摘粒したりしているのだそう。その細やかで想像力がある仕事ぶりはもはや職人技だと思いました。実際、河野さんは「自分の作るシャインマスカット一房一房が自分の作品だと思っています」とおっしゃっていたのが心に残っています。そりゃあ、高価なわけですよね。

そんな河野さんに「美味しいシャインマスカットの食べ方」を伺いました。が、予想通り「そのまま食べるのが一番」とのこと。これは納得です。食べる前に冷蔵庫で少し冷やして、そのまま美味しくいただきましょう。また「美味しいシャインマスカットの見分け方」は軸が青々とみずみずしく、粒が薄く明るい色のものを選ぶとよいそうです。

最後に「マスカット、といえばまず岡山県が浮かぶと思いますが、その点についてどう思われますか?」という意地悪な質問をしたところ「岡山県のマスカット生産は歴史があるし、みんな技術もあるから本当にすごいと思います。ちょっと敵わないかな。」と肩透かしを食らうような謙虚なお答えをいただきました。自分の生産物を作品と考えるような職人気質の、でも謙虚なシャインマスカット生産者の河野さん。いやいやあなたには敵いませんよ。

これからも美味しくて美しいシャインマスカットを作り続けてください。

文 : 松村 純也