高松市街地からほど近くに位置する石清尾山(通称:峰山)の山頂付近、市民憩いの峰山公園からもほど近い風光明媚な場所で洋蘭を生産している大山さんを訪ねました。お会いするなり大山さんは温室の中を案内してくださり、「これはアンスリウム、これはシトニア、あれはシンビジウム…」とすらすら花の名前を唱えながら1ブロックごとに鉢植えを説明してくださいました。
大山さんは「洋蘭の生産者」と聞いていたので、ひとつの大きな温室の中で本当にたくさんの植物が育てられていたこと(そしてその温室で洋蘭は見あたらなかったこと!)にまず驚きました。聞けば、現在は別の温室で栽培している洋蘭の他に、30品目ほどの鉢植えをこの大きな温室で育てているとのこと。その様子はまるで植物園のよう。
「ちゃんぽん栽培ですね。パズルのピースみたいにそれぞれの植物の性質を考えて組み合わせています。天候や時期、生育に合わせて置く場所を入れ変えてみたり、いろいろ試行錯誤しています。楽しいですよ。例えばアンスリウムを育てる時に、いわゆる栽培セオリーでは13℃以上で生育することってなってるんですけど、論文では5℃以上なら育つって書いてあったりする。植物はみんな、結構強いんですよ。
まぁ、同時にいろんな種類の鉢物を育てるのは効率が悪いので普通の生産者さんは絶対にしないですけどね。」と豪快に笑う大山さん。1つのハウス内や温室内で、こんなに多品目の生産物を一度に見たことは今までなかったのでこの光景には衝撃を受けました。
大山農園は戦後大山さんのお祖父様が今の場所を開墾し、始められた農園です。お祖父様は切り花の生産が中心、2代目のお父様はバイオテクノロジーの流行に乗るように増殖が可能な洋蘭の生産を中心に取り組み、3代目になる大山さんは引き継いだ胡蝶蘭などの洋蘭生産だけにとらわれず「今育てたいもの」あるいは「きっとニーズが出てくるもの」を適時に小ロットで生産する栽培を始めました。
また3代目大山さんの代からは、栽培時に「バーク」と呼ばれる可燃性培土を、既存の土の代わりに使用しています。
この可燃性培土、土という漢字は含まれますがいわゆる土ではありません。大山さんが栽培に使用する可燃性培土の素材は樹皮で、四国で長年にわたりこのバークを製造してきた信頼と知識がある製造業者さんのものを使用しています。こちらのバーク製造業者さんは、建築用木材を作る際に産業廃棄物として発生した樹皮を鶏糞や牛糞で発酵させています。今でこそ「リサイクル」「持続可能」という言葉が世間に浸透していますが、もう何十年も前からSDGsの観念を先取りし実行し続けていたことに感銘を請けました。バークの良いところとして、土と違い燃えるゴミとして捨てることができる点が挙げられるため、その価値がより一般的に見直されてきています。
大山さんによると、実際に最近ではホームセンター等の土売り場でもバークを見かける機会が増えてきたとのこと。大山さんの話を伺い、土の代わりにバークを使って植物を育ててみたいという気持ちが湧き上がりました。そして僕ら消費者は「このバークは、どのような過程で、何を原料に作られたか?」を考え、買う前にチェックすることが大切じゃないかなと思いました。
ここで蘭について聞いておきたいことがあったので質問。「お祝いなどでいただいた立派な胡蝶蘭、次の年にもまた花は咲くのか?」という、昔から疑問だったことを尋ねました。その答えはイエス。胡蝶蘭は再び咲くそうです。さらには、生産者の気持ち的には2,3年は花を咲かせてあげてほしいとのこと。もちろん美しい花形は保証できないけれど、ちゃんと管理すれば何年かは花をつけて楽しませてくれるそうです。気をつけなければいけないのは、水をあげすぎないこと。そこは気をつけてくださいとおっしゃっていました。
園芸講習会なども積極的に開催し、生産者としての立場の他にも植物のお医者さん(または植物で困ったらとりあえず頼られる兄ちゃん)として積極的に花木を身近なものにしようと務めている大山さん。話を伺う終わりの方で、少し軽い気持ちで「西洋みたいに気軽に花を買って飾ったりする文化が日本にも根付くといいですね」と言ったところ、
「そういうのが文化として根付くには100年、200年の時間が必要。だから、僕の立場では生活に寄り添うような花だったり、ささやかでも社会に不可欠な存在となりうる花を作っていきたいんです。」とおっしゃっていました。自分の浅はかな一言が恥ずかしく感じる一言。
大山さんは今日も植物園のような温室で、多種多様な鉢植えと向かい合い、嬉しそうに思案していることでしょう。生粋の園芸家だなと思います。
文 : 松村 純也